オタネニンジンを給食メニューに活用するための調理学的検討及び献立例の作成

【目的】会津地方の機能性伝統野菜であるオタネニンジン(漢方の朝鮮人参に対する会津での呼び名)は伝統的に漢方薬以外にも天ぷらなどの食材として使われてきた。オタネニンジンには疲労回復など、体の代謝を高める作用が知られている。地域で伝統的に食されてきた野菜の中に健康を維持することに役に立つものがあることを、給食のメニューを通して児童に伝えることを目指してメニュー及び給食献立例を作成することを目的とする。

【給食献立の作成】
3-1. 小学生に美味しく食べてもらえる給食作成に当たり重視したポイント
調理に使用する際のオタネニンジン(粉末)には、①苦みと独特の香り、②少量でごぼうなどの根菜に似た風味、③水よりも脂分の多いものとなじみやすい、④生や固形乾物に比べて手間がかからずに使用しやすい、などの食材としての特徴を有している。以下にオタネニンジン粉末を使用した個別の学生考案献立の味、調理のポイントを述べる。それぞれの給食献立例について、学校給食摂取基準を参考に栄養価計算を行った。

3-2. 学生考案メニューの調理例とポイント
麻婆豆腐(学生考案給食献立1
豆板醤の材料の唐辛子は辛味が強く、食した時に皮膚感覚としての辛味(痛覚)刺激がおこり、オタネニンジン独特の風味を緩和できる。オタネニンジンは、使用した他の食材であるねぎや豆板醤(味噌)と相性が良く、特に寒い時期には体を温める作用を期待できる。唐辛子は7~9月が旬であり、暑い夏に発汗を促し、麻婆豆腐は夏バテ予防メニューとして夏期にも人気がある。

ポークカレーライス(学生考案給食献立2
カレー粉類の香辛料は香りと味が強く、オタネニンジン粉末を香辛料の一種類として混ぜ、調理することができる。辛味刺激があり、オタネニンジンの独特の風味を緩和できる。

肉じゃが(学生考案給食献立3
オタネニンジン粉末は水分の多い献立に一般的になじみにくい傾向があるが、肉じゃがや筑前煮のような煮物には違和感なく使用できる。煮物は和風のだしを使用する水分の多い献立だが、肉からでる脂分にオタネニンジン粉末が均一に分散し、だし(うま味)、砂糖、しょうゆなどの調味料と調和する。かつお節を混ぜて水分を吸収させ、副菜皿での提供も可能である。具材の人参やじゃがいもといった体を温める根菜類の食材との相性も良い。

ほうれん草の胡麻和え(学生考案給食献立4
種実類を使用した調理例として、ほうれん草以外の食材と和えることも可能である。だし(うま味)、砂糖、しょうゆなどの調味料のみで和えるよりも、ごまを加えることでごまの持つ香ばしい香りによって食欲をそそる一方、ごま由来の脂質が加わることでオタネニンジン粉末がより均一に分散し、調和感を増すことができる。ごまの風味によりこくも増す。野菜を茹でた後の水分を十分にしぼることがポイント。
使用する葉物野菜によっては味の相互作用が変化する。旬の時期の菜の花を使用すると菜の花の苦みが引き立つ。淡色野菜よりも緑黄色の葉物野菜との相性が良い。アーモンド、くるみ、ピーナッツなどを加えることでごまの代用も可能。種実類とは全般的に相性が良い。和えものの調味料は、唐揚げの胡麻ソースや肉、魚など主菜となる材料にごまだれをのせて焼くなど、その他の料理のソースに応用して展開することもできる。

おかかふりかけ(学生考案給食献立5
味付けを濃くすることでオタネニンジンの苦みをマスキングした。ふりかけ以外にも、佃煮などに展開が可能。しょうゆと比べて味噌と混合する方が、よりまろやかな味になる。
その他の調理例として、味噌ピーナツ、青大豆のみそ炒め煮、海苔の佃煮などがある。

チョコレート蒸しパン(学生考案給食献立6
チョコレートやバターなどの脂肪分および糖分は、オタネニンジンの苦味をマスキングすることができる。また、チョコレートの甘い香りのため、オタネニンジン独特の香りはほとんど感じられなくなる。オタネニンジンが入っていることを知らされてもその香りを感じられないほどであった。
チョコレート自体、エネルギー、脂質としての栄養価が高いため、給食の献立として一食あたりの栄養価のバランスを整えるのが難しいのが欠点であるが、クリスマスやバレンタインなどのイベント食としての提供は可能と考えられる。蒸しパンは、アルミカップを使用して単品での調理が可能。均等にオタネニンジン粉末を混ぜて調理することができる。

【その他の調理方法(参考)】
揚げ物
会津市内の飲食店での主なオタネニンジン料理として、生のオタネニンジンを1本そのまま使用した天ぷらが提供されている。生のオタネニンジンは高価であり、生産量も少ないことから、大量調理の給食に利用することは難しい。生の食材として使用する場合、千切りや、ひげ根の部分を野菜のかき揚げ材料として使う。粉末で使用する場合、衣に混ぜると揚げ油に粉末が溶けだしてしまうため、春巻きや揚げ物の具の中に混ぜ、皮や衣で包んで具が直接油に接触しないように揚げると効率を良く調理することができる。また、鶏肉のから揚げや野菜の天ぷらなど固形のままの揚げ物にする場合には、衣に粉末を混ぜるよりも粉末を混ぜたソースを添えるなど提供方法を工夫できる。

主食
粉末として使用する場合、ご飯、パン、麺類への混ぜ込み調理が可能である。
混ぜご飯としてごぼうや油揚げなどと調理することは、味や風味の点で相性が良い。
生麺に混合した場合、麺を茹でる際、湯中にオタネニンジン粉末が溶け出してしまうことが予想され、結果として廃棄率が高くなる恐れがある。麺に混ぜるよりも、麺と一緒に食するかき揚げとして提供するほうが効率的である。ラーメンやそば、うどんの汁は、現状では汁を残すように推奨されているので、めんのつけ汁に混ぜるのは無駄が多い。スパゲティーの場合はソースに混ぜるとよい。ミートソース、トマトソース、クリームソースに応用できる。焼きそばのソースには甘味と酸味、野菜の旨味が含まれており、オタネニンジンと味や風味の点で相性が良い。

果物(ジャム)
水分の多い果物類に直接オタネニンジン粉末を加えても、粉と水分が均一に混ざらずにザラザラとした食感が残るうえ、味も分離する。このような食感・味の分離はわずかな程度であっても好ましくない味覚として認知される。糖分を多量に添加、加熱濃縮させることで、りんご、生姜、はちみつなどの材料と煮て製造されたジャムなどが市販されている。
合わせる果物の種類としては、バナナ、アボカドなど、脂質含有量の多い食品に混ざりやすい。可能な限り水分を少なくしたソースやディップなどは味や風味の点で相性が良い。
柑橘類は水分量が多く、混ざりにくいが、爽やかな香りと柑橘系の風味が引き立ち、焼き菓子、ゼリーなどへの応用は十分に可能である。甘露煮はオタネニンジンの苦みをマスキングすることができる。ベリー類では果実に含まれる何らかの成分との相互作用で、生姜と合わせた時のような辛み刺激を感じた。刺激的な調味のアクセントとして使用できる。

スープ
朝鮮人参の代表的な料理としては参鶏湯が広く知られている。肉を使用した加熱スープの中でも、鶏肉のスープは豚肉や牛肉を使用したスープよりもうま味が強く、味や風味の点で相性が良い。豚肉を使用した豚汁では調味料の味噌がこくを高めるため、オタネニンジンの苦みと調和する。牛肉を使用したスープでは、トマトやクリームの味を追加することでオタネニンジンの苦味を緩和できる。
汁物に混ぜる方法としては、香りを重視する吸い物などにはオタネニンジン独特の風味がだしの風味を邪魔してしまい、不向きである。和食の汁物に合わせる場合、相性の良い調味料であるみそを使用することで風味を緩和したり、具材を油で炒め煮するけんちん汁などに利用するのが良い。
洋風スープはコンソメを使用するものが多く、コンソメに含まれる様々な甘味や酸味、野菜のうま味と相性が良い。