学童の身体指標測定から得られたデータに基づく生活習慣の考察2

【目的】2018年度から開始した本事業において、継続して協力小学校の児童の身体指標測定、および食・生活習慣調査を実施することにより、対象児童の身体状況および日常生活習慣の現状と前年度からの変化を把握すること、ならびに学童自身による身体指標(体脂肪、日常活動量)測定体験活動を通した健康意識の変化を検証することを目的とした。

【方法】
2-1. 体組成測定装置を使った身体指標測定
被験者: 児童8 名(平均年齢11歳)
測定条件: 2018年度と同様に、ポータブル体成分分析装置(Inbody470、株式会社インボディ・ジャパン)を使って児童と一緒に操作を行い、測定した。体組成測定で得られる身体指標データである体重(BMI)、筋肉量、体脂肪量等は、Lookin’Bodyソフトウェアを用いて解析した。測定結果について協力児童・保護者にフィードバックするとともに、協力小学校と平均値や変化率などの全体数値データを共有した。

2-2. 加速度計装置による日常活動量データ収集
被験者: 児童8 名(平均年齢11歳)
測定条件: 2018年度と同様に、KenzライフコーダGS4秒版(SUZUKEN)(幅7.2 cm、高さ4.2 cm、厚さ2.9 cm、重さ45 g、装着するためのフック付き)を腰部に装着して、10日間(朝覚醒後から夜入浴まで)普段通りに活動してもらい、その活動量を測定した。日常活動量の分析はLifelyzer05 Coachソフトウェア(SUZUKEN)を用いて中等度運動時間、歩数について行った。

2-3. 食行動・生活習慣調査
被験者: 児童8 名(平均年齢11歳)
調査方法: 2018年度と同様に、A4用紙5枚分相当の食行動・習慣アンケート調査(BDHQ15y, 2009school)を実施した。併せて日常生活および健康意識・伝統食材知識に関するA4用紙1枚分相当のアンケート調査を行った。これらのアンケートは、各家庭で協力児童とその保護者が一緒に相談しながら記入・提出してもらった。アンケートに基づく食行動・習慣に関する診断結果票を協力児童・保護者にフィードバックするとともに、協力小学校と平均値や変化率などの全体数値データを共有した。

【結果および考察】
2-1. 児童の身体指標
協力小学校の児童8名の身体指標(BMI、体脂肪率(%)、筋肉量)測定結果を図1に示した。発育成長過程にある小学校5年生児童が対象であることから、BMIは成人の意味するものとは異なることが予想される。成長過程にある8名の身長、体重ともに増加している。それぞれの身体指標には大きな個人差がある。肥満に当てはまる児童は現時点で認められない。
全体として筋肉量が成長に従って順調に増加している。筋肉量が増えると基礎代謝がそれに伴い上がることから肥満になりにくい体質となることから、好ましい傾向といえる。
一方、体脂肪率は個人による変動が大きく見られる。増加しているケースでも減少しているケースのいずれの場合においても、標準値に収束してきている傾向がみられる。成長に伴い体の質が順調に健康な大人の体に変化してきているといえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2-2. 児童の日常活動量
協力小学校の児童8名の日常生活における1日の平均活動量(歩数、全活動時間、中等度活動時間)測定結果を図2に示した。8名の児童の平均値は、いずれの活動量指標ともに2018年度に比べて減少していた。3つの指標の最大値はいずれも2018年度から上昇している一方、最小値はいずれも減少していた。日常活動量について、児童間で2極分化が起きている可能性がある。特に、肥満と関連して体内脂肪の燃焼に最も関わるとされる中等度の運動時間の減少は、今後に向けて改善することが必要となると考えられる。身体指標との関連では、BMI、体脂肪率、筋肉量と歩数や中等度運動時間との相関ははっきりしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2-3. 食行動・生活習慣
協力小学校の児童8名の食行動・習慣アンケート調査および日常生活、健康意識・伝統食材知識アンケート調査に関する結果を図3に示した。8名の児童の食事のバランスについてみてみると、2018年度に比べて主菜の摂取量に改善傾向がみられる。ただし、主菜が不足している児童が新たに認められたことから注意が必要である。一方、副菜の摂取が足りないこと、果物をほとんどとらないこと、お菓子などの甘い物を相当量摂取していることなど、2018年度と同様に改善するべき点であることが分かった。成長期にある児童の食事傾向がたんぱく質を多く含む主菜(肉や魚、卵や大豆製品など)と主食(ご飯やパンなどの炭水化物)をより摂取する方向に向かっていることを示していると考えられる。
栄養素の摂取については、タンパク質:脂質:糖質の摂取比率は、おおむね基準とされる1日当たりの摂取比率内の数値であった。脂肪の摂取量が適正化してきており、よい変化といえる。脂肪摂取が不足状況にある児童が1名新たに認められた。ダイエットなどに関心を持つようになる年齢でもあり、正しく栄養を摂ることができるように一層、促していく必要がある。個々の栄養素についてみると、2018年度と同様に、依然としてカルシウム、鉄分の日常的な摂取量が不足している傾向であった。一方、食塩は日常的に過剰な摂取状況が続いている。食塩の過剰摂取は血圧を確実に上昇させる因子であり、現時点では大きな問題にはならないが、塩味の嗜好が定着してしまうと将来、健康上の問題が発生することが懸念される。これらの点については保護者に結果と改善点をまとめたシートをフィードバックした。
日常生活アンケート調査結果から、活動量測定結果で得られた児童の活動時間が全体として短縮してきている、という傾向がより明確に示された。甘い物の摂取過剰は体脂肪を増やすこと、運動することで脂肪を減らすことができること、脂肪を減らすのに役立つ正しい食べ方に関する知識が1年間を通じて正しく定着してきたことが示された。しかし、すべての児童が日常的にお菓子などの甘い物や脂肪を過剰に摂取しており、依然として正しい知識が正しい行動に結びついていない。今後の本事業活動における重要な課題といえる。他の人やテレビなどのメディアを通して得る受動的な知識取得から、主体的学習による知識獲得とその実践活動体験が必要と考えられる。